Jump(21)
トニーからちょっと元気のない連絡があった。
「僕がしばらくフケてた間に、モロ平は新しい投資顧問を雇ったんだ。ああ、某OK大出身で美国のインベストバンクで修行したやつらしいのだけど、そいつにはめ込まれて大穴あけちまったらしい。で、年末の東欧調査旅行なんだけど、資金提供はキャンセルする。って突然いいだした。・・・まったく、相変わらず、ケツの穴の小さいやつだ。
おまけに、ぼくは健康診断で肺気腫だっていわれちゃってさ・・・」
肺気腫・・そんなのあたりまえ、だって、トニーはご飯のおかずに一服してるようなやつなんだから同情の余地はない。しかし、トニーの話がほんとならモロ平は大人じゃないな。
で、モロ平にコンタクトしてみた。
「トニーが、モロ平のことケツの穴が小さいっていってたよ」
「まっ、そういうなよ・・・あのな、だいたい、今東欧旅行なんてやってる場合じゃないぞっ・・・今日、金がニューヨークで最高値をつけたんだ。
リーマンショック以来、美国ドルは世界基軸通貨の地位から滑り落ちるといわれ続け、しかし、かといってそれに変わる世界基軸通貨の登場には時間がかかる。ならその間とりあえずしばらく金がその役割を担うだろうってなストーリーでだな、あくまでストーリーだよ・・金はじり高だったんだがな、美国の手先機関のIMFがだなぁ、このストーリーを察知してIMFが抱え込んでる金の延べ棒を大量に市場に放出すると発表したんだ。
一般には、このIMFの行動は、金の高騰が美国の世界基軸通貨からの凋落を目で見える形にしてしまうのを恐れて、金を大量放出、金価格を押さえようとしている、といわれてたんだがな・・・・
じつは裏情報では、中国とIMF(美国)の間に裏取引があって、放出された金は中国が買い取ることに決まっている。といわれてたんだ。
どうしてかというと、いままで中国は外貨準備のほとんどを美国国債購入にまわしていた。しかし美国ドルが世界基軸通貨の地位から滑り落ちるということは美国国債の暴落を意味する。中国が今まで稼いだお金が一気にフットブ危機に直面してしまっていた。今まで美国国債一辺倒だった資金を世界中の鉱物資源買いあさりにまわしてたりし始めていた。だが金だけは買いたくても中国には買えない事情があった。金の現物、延べ棒をもってるのはIMFと美国だけといってもいいくらいで、市場にはごくわずかしか出回らないんだ。
美国は美国でリーマンショックの後始末のためにまだまだ偽札、つまり美国国債をだなあ、刷らなければならない。でも暴落することが決定的な美国の国債を誰が買うというんだ?そんなわけで裏取引が成立することになるんだよ。国債の売れ残りは美国国債の暴落に直結するから、今までどうり中国には大量に美国国債を引き受けてもらわなければならない。
現在世界の金のほとんどをIMFと美国政府が現在は握っている。「美国国債を買ってくれれば金を市場に放出する。」中国は買いたくても金を買えなかったのだから渡りに船だろ。
そんな裏話があったんだが、実に昨日、インドがIMFの放出した金の半分を買い取っていたことが発表された。インドにしても事情は中国と同じだった。
近々残りの半分は中国が買いましたと発表されるだろ?
金価格は高騰するだろ?そう思わないかいダニー・・・・」
どうやら、モロ平は大穴の穴埋めに東欧旅行の資金までケチって金に投資しようとしているらしかった。まったく!
ああ、エティ氏からはその後連絡はない。今度こそエティ氏のフイゴについて質問しなければならない。氏が昔書かれたご本で事前学習した。
「フイゴは金属精錬と起源を同じくする。あるいは発火装置として、より早い起源をもつ。
柩(くるる)・鼓扇(あてり)・風溜まり・羽口、これらが、このフイゴが空気を制する各部分の名称の全部である。
空気は自分よりも重い物質の上にのみ平等にとどまる。
・・・といえるのも此処が陰に覆われ、冷ややかで暗い場所なので、ちょうど天地の間が始動する以前を想わせる、いわば実験室内の静かな条件が整っているせいである。
しかし始動における最初の衝撃はフィゴによるのではない。熱源の往復運動によって、遠くに去る太陽と近づいてくる太陽の潮汐によって、天と地に挟まれた総てのものは動き出す。天地の間のそのものが呼吸を始め、フイゴとなる。
それよりも、私たちの肺がフイゴなのである。私たちが四季体験する風もまた、天と地の、空間の圧縮と弛緩(太陽熱の強弱により)によって起こる。天地そのものがフイゴなのである。その上、肺というフイゴをもつ私たちの体も天地の間に、即ち巨大なフイゴの中に投げ出されているのである。
クロソウスキーの『バフォメット』(小島俊明訳)に出てくるフイゴ(そこでは死んだ人の無数の霊息がフイゴにより圧縮され放出されて天使の空間を循環している)
空気→フイゴ→風→金属精錬・その変形
・・・古代の金属精錬のタタラ、タタラ師のタタラとは足踏みフイゴのことらしい。」
僕の調べものののとっかかりになった ’鼓扇’(あてり)なんて言葉は、コアなのでネットで調べてもなかなか出てこない。
タタラでは三日三晩火を燃やし続けるので、高熱の炉(たたら)のそばで送風機(足踏みフイゴ)を踏むのは重労働だった。この作業を担当するのが番子と呼ばれる人たちで、多分’かわりばんこ’などという言葉はその重労働を物語ってる言葉だと思える。
洋の東西をとわず産鉄に関する昔話などでは、産鉄の神は片目片足で登場することが多いけれど、このフイゴ踏みによって痛んだ足を物語っているのだろう。
片目の神についていえば、エティ氏はタタラがフイゴだといっているけれど、僕の意見ではタタラ(炉)は子宮を意味しているのだが、そこにはホド(陰土、女陰)穴という小さな穴が穿ってある。村下(むらげ)と呼ばれるタタラバの総技術長はこのホド穴をのぞき炉内部の炎の色で作業進行を判断してゆく。一生続くホド穴のぞきによって村下の高熱にさらされ続けた片目は失われる。
ああ、最初に挙げたエティ氏のご本の中に「遠くの画布、目の前の絵(作業から作業への結び目=瞬間のために)」という作業日誌ののようなものが載っていて、その日のお天気が記録されてるのだが、時々「空」の文字がみえたので、’青空コレクション’しておく。
「Ⅺ・28Mon(完璧な青空 冷たくなってゆく)
今の仕事、これからの仕事を感情で作ってはいけない。冷静に淡々と、つむぐように作業のこと、感情を願望ととりちがえていたのかもしれない。
この作業に願望は排除すること、
もう一度、あらためて絵を、おこしなおすこと、
絵を壊すような、極度に黒いものが必要。」
「Ⅺ・3・Sat(快晴 冷たい風)
Ⅺ・4・Sun(完璧な青空 寒)
紫色は絵の一要素ではなく、絵を破壊するような要素だ。紫色は祈るように塗る。紫色は自己放下のゆきつくところまでゆきついた底から、起き上がる時の手助けのような感じで塗る。
そしてまた、自己放下そのものの体の感じを伴って、紫色はやわらかく、おだやかに、やさしく塗る。
この世界の検体としての描き手、
検体として画家はこの世界に投げ入れられた。」
「Ⅻ・22・Th(寒い空 薄曇り)
弱々しい模索だが、現状なのだから、責めないこと。現状を大事に。
現状から無理に飛躍することをいましめる。又、この弱々しい模索が不満ならば、もっと落胆するもよし。
実験をくりかえすこと。画布の空間の模索。」
「Ⅰ・17・Tue(雪空がはれる)
兎に角、画布のまえに立てればいい。
すべての部分と点、どんな細部も、そして全体もこちらに真っすぐ向いていること。
描く意思、描く心情を排し点から点への造形的な成りゆきにまかせる。
絵画的粉飾に逃げないこと、野暮な作品を作っているのである。」
うんうんいいながら一歩一歩か・・・・・・
とするとJumpは、ジャンプしようとすることではなく、必然的にジャンプしてるのだなキット・・・でもジャンプに備えて’心構え’だけは片時も忘れてはならない。


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